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海洋散骨も場合によっては旅行業登録が必要です。

(このページは2019年10月23日に更新されました)

こんにちは。行政書士つなぐ法務事務所の時村公之です。
今回は、一見すると旅行業とは全く関係ないように見える事業が、実は旅行業登録が必要だったという事例をご案内します。

今回ご案内する事例は、海洋散骨事業です。
それではさっそく見て行きましょう!

ある葬儀会社からのご相談

先日、わたしの事務所にこんなご相談がありました。
ご相談は、弊所のお客様からご紹介のあった葬儀会社様からでした。
お話を伺ってみると、「現在、葬儀会社を運営しているのだが、他社との差別化をはかる為、海洋散骨事業を行いたい。海洋散骨のノウハウ自体は協会で学べるのだが、実際に海洋散骨をするとなると船舶が必要になる。船舶を使用した事業は初めてなので、違法な状態にならないようするには、どうすれば良いのか教えてほしい」とのことでした。

新しい事業を行う時というのは、確かにこのような「何かに違反しないだろうか」という不安が付き物ですよね。
海洋散骨事業で注意しておきたい法律が、「海上運送法」と「旅行業法」です。
これらは、使用する船舶を「自社で購入する」か「外部からチャーターする」かで、適用される法律が異なります。
ひとつずつ確認していきましょう。

自社で船舶を購入して、海洋散骨を行う場合

まず、自社で船舶を購入する場合です。

この場合、「海上において船舶により人の運送をする事業」といえますから、海上運送法に規定される旅客船事業であるといえます。
旅客船事業は、主に以下の5つの事業に分類されます。

    • 一般旅客定期航路事業
    • 旅客不定期航路事業
    • 特定旅客定期航路事業
    • 人の運送をする内航不定期航路事業
    • 人の運送をする貨物定期航路事業

このうち、定期航路事業とは「一定の航路において、定時運航で行う事業」で、不定期航路事業とは「一定の航路において、日程表等を定めないで行う事業」のことを言います。
海洋散骨は、港から海洋のある場所(一定の航路)まで、依頼があった時に人を運ぶ(日程等を定めない)事業ということになりますので、不定期航路事業が該当します。

不定期航路事業には、「旅客不定期航路事業」と「人の運送をする内航不定期航路事業」の2つがあるのですが、使用する船舶の大きさでどちらの事業が適用されるかが分かれます。
使用する船舶が、旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)であれば、「旅客不定期航路事業」、非旅客船(旅客定員が12人以下の船舶)であれば「人を運送する内航不定期航路事業」にあたります。

使用する船舶の大きさによって事業区分が変わるわけですが、実はこのふたつの事業、手続き上も大きな違いがあります。
それは、「旅客不定期航路事業」が「許可申請」であるのに対して、「人を運送する内航不定期航路事業」は「届出」であるという点です。
許可申請は、届出と比べて必要な書類も多いですし、許可には審査があります。
一方で届出は書類に不備さえなければ、基本的には受け付けてもらえます。

私が担当窓口に伺ったところ、「人を運送する内航不定期航路事業の届出」は、作成の難易度もそれほど高くないとのことでした。
また、人的要件として、運航管理者や安全統括管理者の選任が必要となりますが、「人を運送する内航不定期航路事業」の場合、所有する船舶が1台だけで社長が船舶免許を持っていれば、社長を運航管理者や安全統括管理者に専任することでクリアできるとのことでした。
ですので、それほど大きな船舶を使用しなくてもよいのであれば、「人を運送する内航不定期航路事業」を選択されるとよいのではないでしょうか。

なお、この旅客船事業を規定している海上運送法は、海事代理士の管轄で行政書士では手掛けれらませんので、もし「手続きを依頼したい」という場合は、お近くの海事代理士事務所をお尋ねになると良いでしょう。
また、「制度について、もう少し詳しく知りたい」という方は、各地の地方運輸局に担当課がありますので、そちらにお尋ねになると親切に教えてもらえます。

船舶をチャーターする場合

それでは、船舶を外部からチャーターする場合はどうでしょうか?

船舶で人を散骨をする場所まで運ぶという行為は、「運送サービス」に該当します。
そして、この「運送サービス」の提供について、「報酬を得て、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次をする行為」は、「旅行業」に該当します。
「報酬を得て」という部分は、自分が業者に支払うチャーター代に利益をのせずに、お客にはかかった費用分だけ請求しているとしても、「収入=報酬」とみなされます。
ですから、船舶をチャーターして海洋散骨事業をするのであれば、旅行業登録が必要ということになります。

旅行業登録には、以下の4つの種別があります。

    • 第1種旅行業
    • 第2種旅行業
    • 第3種旅行業
    • 地域限定旅行業

では、このうちどの種別を取得すれば良いのでしょうか?

営業所も出航する港も散骨場所も同じ市区町村にある、または港と散骨場所が営業所のある市区町村に隣接した市区町村にある場合は、第3種旅行業か地域限定旅行業で営業が可能です。
逆に港や散骨場所が営業所のある市区町村に隣接していない場合は、第2種旅行業でなければ営業できません。

この理由は、国内の募集型企画旅行が、第3種旅行業や地域限定旅行業では営業できる区域が「拠点区域(自らの営業所の存する市町村の区域、これに隣接する市町村の区域及び観光庁長官の定める区域)内」に限定されているので、散骨場所が拠点区域に収まらない場合は、区域に制限なく営業できる第2種旅行業を取得しなければならないからです。
ですから、営業所・港・散骨場所を全て拠点区域内で押さえることができれば、登録のハードルが比較的低い第3種や地域限定で営業ができるということになります。

なお、旅行業登録には、旅行業務取扱管理者を選任することが義務付けられていますので、資格者を確保することも必須です。
また、定款の事業目的に「旅行業」または「旅行業法に基づく旅行業」の文言が無ければ、旅行業を取り扱えませんので注意が必要です。

旅行業登録は、行政書士業務ですので、船舶をチャーターする形で海洋散骨事業をお考えの方は、旅行業を取り扱う行政書士に相談してみてください。
また、既に海洋散骨を取り扱われていて、まだこれらの手続きを行っていない事業者様は早急に手続きを進める必要がありますので、ご注意ください。

まとめ

さて、ご相談頂いた会社様は、「自社で船舶を所有した方がお客さまの都合にも応じやすい」ことや「旅行業務取扱管理者の資格者が社内にいない」という理由から、まずは自社で船舶を準備して事業に取り組むことにされました。
そのうえで、「自社の船舶が故障した」「社内の船舶免許保有者が多忙で、自社で船舶を運航できない」などの不測の事態に備えるため、旅行業務取扱管理者が準備でき次第、地域限定旅行業の登録も行うことにされました。
弊所では、「人を運送する内航不定期航路事業」の届出についてはお手伝いできないのですが、合法的に海洋散骨事業を開始できるよう、今後も適宜法的アドバイスを行っていきます。

海洋散骨事業に旅行業登録が必要って、驚きではありませんか?
このように、旅行とは全く関係の無いような事業でも、「お客の宿泊や移動について代行契約・取り次ぎをしている」というような場合は、旅行業に当てはまっているというケースがよくあります。
無登録営業をした場合、100万円以下の罰金が科せられますし、なにより会社の社会的信用を失う事態にもなりかねませんので、注意が必要です。
不安な方は、旅行業を取り扱う行政書士事務所にご相談されてみるとよいでしょう。

本日は、「海洋散骨も場合によっては旅行業登録が必要です。」をテーマに、旅行業登録の必要な意外な事業をご紹介しました。

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