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ホテル・旅館がM&Aなどの事業承継する際に必要な旅館業法の手続きを解説

(記載:2020年7月17日)

行政書士つなぐ法務事務所の時村公之です。
今回は「ホテル・旅館がM&Aなどの事業承継する際に必要な旅館業法の手続きを解説」というテーマで、旅館業の事業承継の現状と事業承継に伴う営業権の承継について詳しく解説していきます。

それでは早速見ていきましょう!

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営権や理念、資産、負債など、事業に関するすべてのものを次の経営者に引き継ぐことをいいます。

承継方法には、「親族内承継」「親族外承継」「社外承継」の3種類があります。

親族内承継とは、経営者の親族(主に子供)が事業を引き継ぐという承継方法です。次に親族外承継とは、社内の役員や従業員を経営者に昇格させたり、社外から経営者を招聘するという承継方法です。最後に社外承継とは、他社に株式を譲渡したり、事業そのものを譲渡することで第3者に事業譲渡するという、いわゆるM&Aとよばれる承継方法です。

それぞれにメリットとデメリットがあるのですが、近年は法人経営者の親族内承継の割合が急減し、従業員や社外の第三者といった親族外承継が6割超に達したという調査結果もあります(2016年11月28日 中小企業庁 事業承継に関する現状と課題について)。

ホテル・旅館の事業承継の現状

2019年1月22日に日本政策金融公庫が発表した事業承継に関するアンケート調査結果によると、ホテル・旅館業では54.9%の経営者が事業承継の意向がある一方で、自分の代で終わりにしようと考えているホテル・旅館が12.6%あります。

事業承継の意向ある事業者のうち、後継者・後継者候補がいると回答したのは83.3%で、このうち後継者・後継者候補が自身の子供と回答したのは90.0%ですから、およそ半数のホテル・旅館は親族内承継で事業承継を検討しています。

一方で、事業承継の意向はあるものの後継者・後継候補者が未定で、後継者不在に悩むホテル・旅館は16.7%あります。また、自分の代で終わりにしようと考えているホテル・旅館(12.6%)のうち、第三者から事業を承継したいという打診があれば事業承継を検討すると回答した事業者も36.3%あります。

これらのホテル・旅館を合わせると、およそ7件に1件の割合で社外承継(M&A)のニーズがあることが伺えます。実際にホテル・旅館業界におけるM&Aの件数は増加化傾向にあると言われています。

ところで、2020年7月15日に観光庁が発表した「旅館への投資の活性化による『負のスパイラルの解消』に向けた支援のあり方に関する分科会」の報告書によると、地域旅館の3割が、積極的な投資やマーケティングの欠如により、旧来型事業モデルから脱皮できず、赤字が続き、施設も老朽化していくという負のスパイラルに陥っていっており、こうした旅館群の廃業が地域経済に大きな影響を与える恐れがあるとしています。

そこで国は、こうした旅館群の再生や新陳代謝の促進が重要であることから、今後は地域の有力旅館を含めた意欲ある担い手に転貸し、当該旅館が地域の経営困難な旅館の運営等を行うことにより地域旅館等の再編を促していけるような新陳代謝を促進する仕組みづくりに取り組もうとしています。

このように、第三者への事業承継ニーズがある一方で、国も今後は地域旅館等の再編を促すための仕組みづくりを進めて行くことから、今後もホテル・旅館のM&Aは増えていくものと思われます。

ホテル・旅館の事業承継に必要な旅館業法の手続き

ホテル・旅館が事業承継をする際に問題となるのが、旅館業の営業許可の承継できるのかということです。これは、最初にご案内した承継方法にかかわらず、営業許可を取得している者が法人か個人かで、承継の可否と必要な手続きが違います。

法人から営業許可の承継をする場合

法人から事業承継する方法には、株式譲渡、法人の合併、会社分割・事業譲渡という4つの方法があります。

株式譲渡とは、会社のオーナーが保有する株式を買手に譲渡することで、会社の経営を承継させる手続きです。この場合、営業許可をもった法人がそのまま残りますので、代表者の変更等の届出のみで手続きを完了することができます。

次に法人の合併および会社分割の場合です。法人の合併とは、複数の企業を1つの法人格に統合することを言います。一方で、会社分割とは、社内にある事業を切り離して別の会社に引き渡す手法のことをいいます。これらの場合は、旅行業法第三条の二の規定に基づき、営業許可も承継することが可能です。

旅行業法第三条の二前条第一項の許可を受けて旅館業を営む者(以下「営業者」という。)たる法人の合併の場合(営業者たる法人と営業者でない法人が合併して営業者たる法人が存続する場合を除く。)又は分割の場合(当該旅館業を承継させる場合に限る。)において当該合併又は分割について都道府県知事の承認を受けたときは、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人又は分割により当該旅館業を承継した法人は、営業者の地位を承継する。
(以下略)

具体的には、合併や会社分割を行う前に「旅館業営業承継承認申請書」を各都道府県知事に申請し、承継の許可を受けます。

最後に、事業譲渡の場合です。事業譲渡とは、企業が運営している事業を対象に、範囲を指定して売買することを言います。会社分割と混同されがちですが、会社分割が組織の再編行為であるのに対して、事業譲渡は事業の売買行為であるところに違いがあります。

事業譲渡の場合は、営業許可の承継はできませんので、譲受法人は新規に営業許可を取得する必要があります。

個人から営業許可の承継をする場合

個人が取得した旅館業の営業許可を、売買や贈与等で別の個人や法人に承継することはできません。これは、旅館業の営業許可が、申請者(個人・法人)が運営する申請された宿泊施設に対して営業することを認めるものだからです。

もし、個人が営業するホテル・旅館を事業承継する場合には、現在の許可について廃業届を提出したうえで、改めて承継者が新規で旅館業の許可申請を行うことになります。

まとめ

ここまで、ホテル・旅館業界の事業承継の現状や事業承継が行われた場合の営業許可の承継方法について確認しましたが、いかがだったでしょうか?

旅館業の営業許可というのは、申請者(個人・法人)と申請施設に対して認められる許可であることから、許可の主体によって、それぞれ手続きが異なることがご理解いただけたと思います。

これらの手続は、事業承継手続きと旅館業法の手続きを一緒に進めることになります。特に、合併や会社分割で事業承継を行う場合、その順序を誤ると、既存の営業許可が先に失効してしまいますので、手続きを行う際は、事前に管轄部署に問い合わせて相談しながら進めることをお勧めします。

ちなみに、個人で旅館業を営業している方がお亡くなりになって、相続人がその旅館業を引き継いで営業する場合は、相続用の旅館業営業承継承認申請を行うことで、営業許可の承継をすることができます(旅館業法第三条の三)。

今回は「ホテル・旅館がM&Aなどの事業承継する際に必要な旅館業法の手続きを解説」というテーマで、旅館業の事業承継の現状と事業承継に伴う営業権の承継について詳しく解説しました。

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