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12.22019
旅館業と建築基準法(後編)
(記載:2019年12月2日)
行政書士つなぐ法務事務所の時村公之です。
今回は「旅館業と建築基準法(後編)」というテーマで、前編に引き続き、旅館業の許可申請に必要な建築基準法の知識を確認していきます。
前編はこちらから「旅館業と建築基準法(前篇)」
この記事は、これから一般の戸建住宅で民泊などの旅館業を始めたいと考えている方に向けて作成しています。
それでは早速見ていきましょう!
<目 次>
内装制限(建築基準法施行令第129条)
室内で火災が次第に拡大して、可燃性のガスが部屋の上部にたまり、それがある段階で一気に引火して、部屋全体が爆発的燃焼を起こす現象のことをフラッシュオーバーと言います。
内装制限とは、火災時にこのフラッシュオーバーに至るまでの時間をできるだけ遅らせ、火災の拡大を防止し、避難と消火活動を円滑にさせるために、建築物の壁と天井の仕上げを不燃材料などの燃えにくい材料にするという防火上の規定です。
一般建築物である戸建住宅では、台所や浴室などの火気使用室の内装仕上げについて準不燃材料以上とする必要があります(最上階以外にあるものを除く)が、廊下や階段・通路については内装制限はありません。
一方で、ホテル・旅館等の特殊建築物については、以下の通り規模に応じて居室を難燃材料(1.2m以下の腰壁部分を除く)、廊下・階段・通路を準不燃材料以上としなければなりません。
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- 耐火建築物:3階以上の部分の床面積の合計300㎡以上(※)
- 準耐火建築物:2階部部の床面積の合計が300㎡以上
- その他:床面積の合計200㎡以上
(※)床面積100㎡(共同住宅の住戸は200㎡)以内ごとに準耐火構造の床、壁、特定防火設備で区画されている居室は対象外
ですから、例えば民泊に使用しようとする戸建住宅が「その他」に当たる場合は、居室や廊下・階段・通路の内装を基準に以上とする工事をしなけれなりません。
また、最上階に台所や浴室などの火気使用室がある場合は、こちらも内装を準不燃材料以上としなければなりません。
廊下の幅(建築基準法施行令第119条)
これまでは、主に「防火に関する規定」を確認してきましたが、ここからは「避難に関する規定」を確認していきます。
まずは廊下の幅です。
建築基準法第35条では、ホテル等の特殊建築物や階数が3以上である建築物については、「廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない」として、政令で規定を設けることになっています。
そしてこれを受けて建築基準法施行令第119条では、廊下の幅について、地上階の居室の床面積の合計が200㎡(地階であれば100㎡)を超える階については、以下の通り廊下の幅を確保しなければならないとされています。
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- 中廊下(廊下の両側に居室があるもの)…1.6m以上
- 片廊下(廊下の片側のみに居室があるもの)…1.2m以上
ただし、その廊下が3部屋以下の専用の廊下である場合は対象外となります。
民泊に利用しようとする戸建住宅が3階建以上であれば、上記の基準で建てられているので特に問題はありません。
しかし、2階建以下の場合は、居室の床面積の合計が200㎡を超えていても上記の規制を受けていないため、必要な廊下の幅が確保されているかを確認しなければなりません。
敷地内通廊(建築基準法施行令128条)
災害時に避難階(直接地上に通じる出入り口のある階。通常は1階。)までたどり着けたとしても、そこから先の敷地内の通路が狭くては安全な場所にまで避難することができません。
そこで、ホテル等の特殊建築物や階数が3以上である建築物については、幅員1.5m以上の敷地内通路を設けなければならないことになっています。
非常用の照明装置(建築基準法施行令第126条の4)
非常用の照明装置については、建築基準法施行令第126条の4第1号にて、一戸建住宅については設置が免除されています。
一方で、ホテル・旅館等の特殊建物については、居室および居室から地上に通じる廊下や階段などの通路に非常用の照明装置の設置が義務付けられています。
このように戸建住宅をホテル・旅館等に用途変更する場合は、居室および居室から地上に通じる廊下や階段などの通路に非常用の照明装置を設置しなければなりません。
ただし、建築基準法施行令第126条の4第4号では、「避難階又は避難階の直上階若しくは直下階の居室で避難上支障がないものその他これらに類するものとして国土交通大臣が定めるもの」については規制の対象外としており、これを受けて、平成12年5月31日建設省告示第1411号では、以下の場合については、非常用の照明装置の設置が免除されるとしています。
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- 避難階に存する居室等にあっては、当該居室等の各部分から屋外への出口の一に至る歩行距離が三十メートル以下であり、かつ、避難上支障がないもの
- 避難階の直下階又は直上階に存する居室等にあっては、当該居室等から避難階における屋外への出口又は令第百二十三条第二項に規定する屋外に設ける避難階段に通ずる出入口に至る歩行距離が二十メートル以下であり、かつ、避難上支障がないもの
この基準に従えば、2階建以下かつ延べ面積200㎡以下の戸建住宅については、居室は非常用の照明装置の設置が不要となるケースがほとんどです。
ただし、居室から地上に通じる廊下や階段などはこの免除規定は適用されないため、非常用の照明装置の設置が必要です。
階段の各部寸法(建設基準法施行令第23条)
最後に「良好な室内環境に関する規定」の中から一般の戸建住宅とホテル・旅館等の宿泊施設で規制の異なるものを確認しておきます。
それが、階段の寸法です。
建築基準法施行令第23条第1項では、住宅の階段(共同住宅の共用の階段を除く)について、階段の各部の寸法を以下の通りに規制しています。
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- 階段及びその踊場の幅:75cm以上
- 蹴上げ(段差)の寸法:23cm以下
- 踏面(奥行)の寸法:15cm以上
一方で、ホテル・旅館等の宿泊施設については、以下の通りとなります。
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- 階段及びその踊場の幅:75cm以上
- 蹴上げ(段差)の寸法:22cm以下
- 踏面(奥行)の寸法:21cm以上
戸建住宅をホテル・旅館等に用途変更する場合は、階段の寸法も建築基準法令に適合させなければなりませんので、階段の寸法についても適合しているかどうかのチェックが必要です。
万が一、適合していなかった場合は改修工事を行わなければなりませんが、工事費が高額になる場合や、そもそも改修工事が不可能という場合もあります。
まとめ
さて、2回にわたって戸建住宅を宿泊施設として使用する場合に必要な建築基準法の知識を確認してみましたが、いかがだったでしょうか?
これまで見てきたとおり、戸建住宅と宿泊施設では、そもそも建築の基準が違う為、一般住宅で民泊を始めようというときは、まずこの建物が宿泊施設として用途変更できるのかを見極めることが大変重要になってきます。
ですから、こうした場合には必ず一級建築士などの専門家の判断を仰ぐことをお勧めします。
また、今回ご紹介した建築基準法以外にも消防法や旅館業法など適合させなければいけない法律も多い為、全ての法律に適合するように法令や条例や告示・通達等に精通することが必要です。
以上、「旅館業と建築基準法(後編)」というテーマで、旅館業許可申請に必要な建築基準法の知識についてご案内しました。