最新記事

気になる旅行業法の違反事例(自治体の子供向けツアー編)

(記載:2019年12月22日/更新:2023/4/17)

行政書士つなぐ法務事務所の時村公之です。
今回は「気になる旅行業法の違反事例(自治体の子供向けツアー編)」というテーマで、過去の違反事例から、なにが違反と判断されるのかを解き明かします。

この記事は、ご自分の事業やビジネスモデルが旅行業法に違反していないかがご心配な方の為に作成しています。
それでは早速見ていきましょう!

「旅行業法違反」との指摘で、自治体の子供向けツアー中止相次ぐ

2017年6月、川崎市教育委員会は市内の小中学生を対象に7月下旬から実施予定だった「ふれあいサマーキャンプ」の開催を急きょ取りやめました。

中止のきっかけとなったのは、6月に神奈川県海老名市が主催するバスツアーが「無登録で不特定多数の参加者を募り、費用を集める行為は旅行業法に触れる恐れがある」と市議会で指摘されたためでした。

この海老名市議会での指摘を知った川崎市教育委員会の担当者が、「川崎市の行う『ふれあいサマーキャンプ』についても同様のケースと言えるのか」を神奈川県に問い合わせたところ、「募集の地域を市内に限定しているとはいえ、小学生から中学生を募集の対象とするのは、募集を特定しているとは言いづらい(不特定多数を対象としている)」との回答がありました。

そのため、川崎市は登録資格がある旅行業者への委託を検討しましたが、実施日が迫り、日程変更が困難だったため、結局実施を断念しました。

その後、神奈川県が、「県内の自治体が関与するツアーにおいて旅行業法上適切な取り扱いとは言えないものが認められた」として、自治体が関与するツアーであっても旅行業法に基づき適切に取り扱うよう求める文書を市区町村に出したため、7月に入り同県平塚市で市内の小学5・6年生を対象に計画されていた自然体験キャンプも中止となりました。

今回の事例では、市内の小中学生を募集することが、不特定多数の参加者を募集することになる為、旅行業違反であるとの指摘を受けました。

それでは、なぜ「不特定多数の参加者を募集」することが旅行業違反になるのでしょうか?

なぜ旅行業法違反と指摘されたのか?

旅行業法第二条第1項には、「この法律で旅行業とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業をいう。」と定義ています。
つまり、①報酬を得ている、②旅行業法で法定された行為を行っている、③事業として行っている、という3つの事実が揃うと旅行業であると判断されます。

①の「報酬を得ている」とは、「金銭その他の資産的な収入(経済的収入)を得ている」ことと定義されていますので、利益が出ていなくても経済的収入があれば、報酬を得ていることになります。(参照記事:「気になる旅行業法の違反事例(ボランティアバス編)」

②の「次に掲げる行為」とは、旅行業法第二条第1項の各号で掲げられる法定行為になります。

最後の③の「事業として行っている」とは、その行為に事業性があるかということになります。

通常、行為の事業性の有無は、その行為に①営利性がある、②不特定多数を対象としている、③反復継続性がある、という3点が認められるかどうかで判断されます。

今回の事例では、特にこの②不特定多数を対象としているという部分がクローズアップされ、ツアーに事業性が認められるのではないかと判断されたと考えられます。

そして、①報酬を得ている(参加者から費用を集めている)、②法定行為を行っている(ツアーの企画・主催)についても該当していると判断され、結果、旅行業法に抵触するのではないかとの指摘を受けたということです。

現在の運用

こうした問題の起こった背景には、旅行業法の成立の古さにあります。

旅行業法は1952年に作られた法律で、基本的に日本国内の旅行業者による旅行商品の店頭販売、団体旅行が中心の時代に対応した内容の為、自治体等がこうしたツアーを行うことを想定していませんでした。
この問題が起こった当時の観光庁幹部も「旅行業法は旅行業者の監督を想定しており、自治体は念頭においていなかった」と説明しています。

そこで、観光庁は問題の起こった同年の7月28日に「自治体が関与するツアー実施に係る旅行業法上の取扱いについて」という通知を出しました。

この中で「自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与し、かつ、営利性、事業性がないものであれば、旅行業法の適用がないと解されます。」として、自治体が関与するツアーについて旅行業法の適用外になる場合の条件を示しました。

その条件とは、①自治体が実質的に企画・運営するものであること、②参加費等名目を問わず参加者から徴収する金員では、収支を償うことができないこと、③日常的に反復継続して行われるものでないこと、④不特定多数の者に募集を行うものでないこと、の4点です。

そして、④不特定多数の者に募集を行うものでないことについては、「自治体の域内や姉妹都市の域内である等、募集の範囲が限定されており、自治体が実質的に関与していると認められる限り、不特定多数の募集ではないと考えらるが、最終的にはツアーの内容に照らして適切に範囲が限定されているかを含め、営利性、事業性を総合的に判断することになる。」として、不特定多数の者に募集を行うものではないと考えられる条件を示しました。

また、翌年の2018年には旅行業施行要領の改正を行い、旅行業法第二条第1項に掲げる旅行業について、「当該行為が旅行業に該当するかは、旅行業務に関する対価の設定、募集の範囲、日常的に反復継続して実施されるものであること等を踏まえ、総合的な判断を要するものである。」と明記し、事業として判断するかどうかは、その行為に①営利性、②募集の不特定多数性、③反復継続性、の3要件を総合的に勘案して判断するとしました。

こうして、自治体が募集の範囲を限定して企画・運営するツアーについて、報酬を得て、旅行業法上の法定行為を行っていても、募集の不特定多数性等が認められない場合は、事業性が認められないことから、旅行業法で規定する旅行業にはあたらないということになりました。

まとめ

さて、ここまで「自治体の子供向けツアーがなぜ旅行業違反に当たるのではないかという指摘を受けたのか」について確認してみましたが、いかがでしょうか?

前述の通り、旅行業法は制定から70年近くが経過しているため、当時では想定されていなかったサービスが次々と生まれている現在では、法律と現実が乖離しているという場面も多々あります。

今回ご案内した事例では、事業性が認められないことから適法という判断に至りましたが、逆に、一見旅行業とは関係の無さそうな行為でも、その一つ一つを確認していくと旅行業法における旅行業にあたると判断されるものについては、無登録営業と指摘される場合もあります。
(参照記事:海洋散骨も場合によっては旅行業登録が必要ですその送迎サービスには旅行業登録が必要です

旅行業法の場合、無登録で旅行業を行うと「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金、又はその併科」となり、その後、改めて旅行業登録をしようとしても登録ができない場合もあります。
ご自分の事業やビジネスモデルが法律に違反していないかが不安な方は、以下のサイトにご自身の事業が旅行業に該当するかどうかを解説していますので、是非ご覧ください。

旅行業法に該当する行為とは?旅行号登録が必要かどうかを解説します

以上、「気になる旅行業法の違反事例(自治体の子供向けツアー編)」というテーマで、過去の違反事例から、なにが違反と判断されるのかを解き明かしました。

関連記事

ページ上部へ戻る